Archive for the ‘労働’ Category

 セクハラ(セクシャル・ハラスメント)

2014-11-24

 セクシャル・ハラスメントについて教えて下さい。

セクシャル・ハラスメントとは「相手方の意に反する性的言動」のことです。

もっとも、具体的にさまざまな態様の性的行為が損害賠償請求の対象となったのであり、そのような事例が係属した裁判所は、個々具体的な事実関係の判断のなかで、不法行為の要件を満たすだけの違法性のある行為なのかを論じていたことになり、当該事件で問題となった行為が、上記のセクシャル・ハラスメントの定義に含まれるか否かというのは、実務的にはあまり意味のない議論です。

また、従来セクシャル・ハラスメントは上司と従業員の間の問題とされてきましたが、セクシャル・ハラスメント行為が職務関連行為に該当するときは、民法715条の使用者責任により、又は使用者自身の不法行為を構成して、勤務先の企業を被告とする損害賠償請求訴訟が提起されるようになりました。

このような中で次第にセクシャル・ハラスメントに対する社会ないし裁判所の見方が変化していき、現在では、女性がセクシャル・ハラスメントを受けない良好な労働環境の中で勤務できるよう様々な法改正も行われています。

セクハラを受けないという女性の利益は、法によってしっかりと守られる必要があり、職場でセクハラを受けた方は、勇気をもって弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

 セクハラの慰謝料

2014-05-23

セクハラの慰謝料について教えて下さい。

セクハラの慰謝料の額については、5万円から500万円までとかなり差があります。

頻繁に嫌がる女性に対して酒の席で肩に手をかけたという事例で、5万円の慰謝料となっているものがあります。

酒の席で肩に手をかけたくらいでどうしてセクハラなのかという疑問を持たれる方もおられるかもしれませんが、女性が嫌がっていたということと、身体的な接触があるということがポイントです。

逆に高額な事例(慰謝料500万円)は、2人だけの部屋で性的な関係を迫り、無理矢理キスしようとした、またマッサージと称して被害者の体を何度も触り、ラブホテルに入ろうと何度も誘うという行為の結果、被害者が精神疾患になり、退職を余儀なくされたというものです。

この事例では、継続的なセクハラ行為が行われ、その結果、被害者が精神疾患となり、退職にまで追い込まれているという点がポイントです。また、身体的な接触がある等、その行為態様も悪質であることもポイントです。

このように、セクハラにおける慰謝料の金額は、行為の態様、被害者の結果、継続性等が重要な判断要素となります。

特に退職との因果関係が問題になるケースでは、セクハラによって退職を余儀なくされたのかという因果関係の有無が慰謝料の額や逸失利益にも影響しますので、とても重要なキー要素になります。

(なお、知的障害者の労働者に強姦等を繰り返していた事例で500万円というものがあります。

個人的には、これはとても低額なように思われ、結局、裁判官の裁量によるところも大きいと思われますので、一概には判断出来ないというもの現実です。)

 病気休職と自然退職・解雇

2014-03-07

病気休業中の労働契約の取り扱いについて教えて下さい。

例えばうつ病等にかかり、仕事に行けなくなった場合、多くの会社では、就業規則の定めに従い病気休職とされます。

病気休業制度は、解雇を猶予する目的の制度であり、多くの会社が解雇をする前に一度休職の措置をとります。

そして、この休職期間中は、ノーワーク・ノーペイの原則どおり、無給になります。

なお、健康保険に加入する事業所であれば、健康保険法上の制度として、傷病手当金という制度があり、健康保険加入中に私病による休職を余儀なくされた場合は、標準報酬額の3分の2の支払を受けられます。

問題は休職期間が満了した後のことです。

この休職中に病気が治癒すれば良いのですが、治癒しない場合には、自然退職となるか会社から解雇されてしまいます。

そして、ここにおける「治癒」とは、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復したことを意味すると考えるのが原則です(使用者が休職者の治癒を認定するについて、就業規則上、会社の産業医の診断を受けることを要求することができる旨を規定する事例が多いです)。

もっとも、特定の職種や業務内容を限定していない事例については、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして同人が配置される現実的可能性があると認められる他の業務が他にあったか否かを検討すべきであるというされております。

つまり、労働者の病気について、使用者に一定の配慮をする義務を課すという判断をしているのです。

以上のような判断枠組みに従い、治癒したと認められる場合は、自然退職ないし解雇は無効である一方、治癒したと認められない場合には、自然退職ないし解雇となり、その判断は有効とされます。

 

 

 残業代の請求と反論

2014-03-04

「基本給に残業代が含まれている」は通用するの?

まず、労働者からの残業代請求は、当然のことながら、残業代が支払われていないことを前提としています。

しかし、会社によっては、毎月の賃金につき、定額の残業代を含めて賃金を支払っている場合があります。

そのような場合には、その定額については、既払いであるとの反論をすることが考えられますが、このような反論は認められるのでしょうか。

I 基本給に定額の残業代を含めることが許されるのか

そもそも、残業時間を計算して、残業代を算出するのではなく、基本給に残業代を含めることが認められるのでしょうか。

これについて判例は、基本給のうち時間外手当に当たる部分を明確に区別して合意し、かつ、労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことを合意した場合にのみかかる合意を有効と認めています。

ですので、そのような区別を明確にしていない限りは、原則として、前記のような反論は難しいという結論になります。

II 明確に区別して合意していない場合について

基本給部分と時間外手当部分を明確に区別していない場合には、一切基本給に時間外手当が含まれているとの主張は認められないのでしょうか。

前記のように、明確な区別がされていない事案においては、原則として、基本給に残業代が含まれていることを認められないと考えられます。

ただ、以下のような裁判例も存在します。

これは、例外的な裁判例と考えられますが、明確な区別がされていない事案で、基本給に時間外手当が含まれているとされた例です。

この事案では、外資系インベストメントバンクに勤務していた労働者が残業代の請求をしたものですが、賃金が労働時間によって決まっておらず、使用者が労働時間を管理していなかったこと、労働者も時間外手当が支給されると考えていなかったこと、基本給だけでも月額183万3333円を超えていたことなどから、明確な区別がされてなくとも、労働者の保護に欠けないとして、基本給に時間外手当部分が含まれていると認定しました。

 懲戒解雇と適正手続き

2014-03-02

懲戒解雇の手続きについて教えて下さい。

懲戒解雇は刑事罰に類するものとして、適正手続きの要請が妥当すると言われています。

具体的には、非違行為を行った労働者の言い分を聞いて、主張反論の機会を与えることが必要と言われています。

これを適正手続きといいます。

適正手続が問題となるのは、就業規則の定めがない場合に、会社側が主張する懲戒事由が何かの説明をまったくせず、かつ当該懲戒事由についての言い分を聞くことなく(つまり、告知と聴聞の手続を全然とることなく)争われる事例です。

上記のように、適正手続きが原則的に必要とはいいましても、下級審の裁判例を見ると、就業規則中に弁明を聞く手続を定めた規定がなかったことから、弁明を聞く機会を与えなくても、懲戒解雇は違法にならないとしたもの、

事前調査の段階で、弁明を言おうとすれば可能であったとして解雇を有効としたもの、

非違行為が重大かつ明白で、弁明を聞いたとしても処分内容に影響があったとは認められないとしたもの、

行為は明らかで原告が弁明をしようとしていた内容は使用者も認識しており、処分も3日間の停職で軽微であることを理由として懲戒処分の効力を維持したものというように、手続違背のみを理由とする懲戒解雇権の濫用を認めない裁判例の方が圧倒的多数です。

賛否両輪があるところではありますが、私見としては、このような裁判例は前記適正手続きを要請する趣旨を没却するものであり、賛成出来ないと言わざるを得ないでしょう。

 普通解雇と懲戒解雇

2014-03-01

懲戒解雇と普通解雇の関係等について教えて下さい。

 

普通解雇と懲戒解雇の違い

普通解雇は、民法上の解雇自由の原則を前提として、解雇権濫用法理(労契16条)によって、その解雇権行使に制限が加えられているものです。

他方で、懲戒解雇は使用者が有する労働者に対する懲戒権の行使を根拠にするものです。

普通解雇の場合は、権利濫用法理を用いていますので、解雇の意思表示をした時点において、客観的に存在するすべての事情を権利濫用の評価根拠事実、評価障害事実として主張することができ、総合的に判断して、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ものであるか否かを検討します。

懲戒解雇は、懲戒事由の存在を前提とし、それに対する懲罰である以上、その懲戒事由を差し替えて、懲戒解雇の有効性を維持することはできません。

懲戒解雇に伴う不利益

懲戒解雇になると、解雇予告手当が支給されないとか、退職金が不支給になる場合が多いのも特徴的です。

解雇予告手当についての労働基準法20条1項但書に規定する除外事由「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当する場合が多いと思われ、懲戒解雇をするだけの非違行為を認めることができれば、解雇予告なく即時解雇できる場合が多いです。

しかし、懲戒解雇として有効な場合であっても、上記の「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合」に該当する程度の重大な服務規律違反が認められない場合もあり得ると一般には解されていますので、ここは格別の検討が必要です。

なお、労働基準法上、上記の解雇予告義務の除外事由は、行政官庁の認定を受ける必要がありますが、この認定は、行政庁による事実の確認手続にすぎず、これを受けないでなされた即時解雇の有効性を損なうものではないと解されています。

懲戒解雇と退職金不支給

多くの事例で、就業規則中の退職金規程に、懲戒解雇された場合には、退職金の全部又は一部が支払われないという退職金不支給条項があり、このような条項があれば、原則として懲戒解雇された場合には、退職金が支給されないことになる一方、上記のような退職金規定の退職金不支給条項を欠いていれば退職金は支給されることになります。

退職金不支給条項がある場合でも、上記条項は、退職金の法的性質が、賃金後払いの要素であると解されていることとの関係から、懲戒解雇事由があるだけでなく、当該事由が、「労働者のそれまでの勤続の功を抹消又は減殺させるほどの著しい背信行為」に該当する場合に不支給になると限定して解釈する裁判例が主流です。

 解雇と不法行為(損害賠償請求)

2014-02-24

不当に解雇されましたが、不法行為に基づく損害賠償請求は可能ですか。

この点については、諸説ありますが、「権利濫用にあたる解雇は、使用者に故意・過失のあるかぎり労働者の雇用を保持する利益や名誉を侵害する不法行為の成立要件を吟味したうえで結論を出すべきであり、権利濫用にあたる解雇が当然に不法行為になるとは解すべきでない」とする説が有力なようです。

したがって、無効な解雇=不法行為とはなかなか言えない場合も多いです。

なお、解雇が不法行為にあたる場合の逸失利益については、裁判例では、労働者が地位確認・賃金請求に代えて不法行為による損害賠償を請求した場合につき、一定期間の賃金相当額を逸失利益として認めたものと認めなかったものがあり、定説はありません。

本来、解雇権の濫用にあたる解雇は無効ですので、労働者は解雇期間中の賃金請求そのものをなすべきなのです。

しかし、権利濫用の解雇をされた労働者が解雇をした企業に見切りをつけつつ、解雇についてはその不当性を明らかにするため損害賠償を請求する場合には、事実上適当な期間の得べかりし賃金相当額を逸失利益として認めるのも実際上妥当な手段でしょう。

 能力不足•成績不良と解雇

2014-02-23

 能力不足と解雇について教えてください。

解雇については、解雇最後の原則といって、解雇は最終手段であることが必要となります。

能力不足•勤務成績不良による解雇については、何度も指導したり、別の仕事を行わせたりして、それでもなお改善の余地がない場合にしか出来ないのが原則です。

実際、企業が成績不良と見る長期雇用従業員を企業合理化のために放逐しようとしたケースに関する裁判例は、解雇を容易には認めない傾向にあります。

典型的には、ある裁判例は、長期雇用下の正規従業員の成績不良を理由とする解雇については、長期雇用・長期勤続の実績に照らして、単に成績が不良とだけでなく、それが企業経営に支障を生ずるなどして企業から排除すべき程度に達していることを要すると述べております。

ただし、長期雇用下の中核的従業員については、そうであるがゆえに高度かつ総合的な職務遂行能力を求められるという点に着目して解雇を緩やかに判断する裁判例も増えています(個人的には問題の多い裁判例であると考えますが)。

 雇止め法理

2014-02-22

 雇止め法理について教えて下さい。

有期雇用契約の更新拒絶については、労働契約法が改正され、

①過去に反復して更新されたことがある有期労働契約であって、その契約期間の満了時に当該契約を更新せずに終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をして契約を終了させることと社会通念上同視できると認められるか、または、当該労働者が当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該契約の更新を期待することについて合理的な理由があるものと認められる場合であって、②当該有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に労働者が当該契約の更新の申込みをしたか、または当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしており、③使用者が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす、と規定されました。

本条は、反復更新により実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合、または契約更新につき合理的な期待が認められる場合、更新拒否については客観的に合理的で社会通念上相当な理由が必要となる、という雇止めの判例法理を立法化した規定であります。

法律効果のうえでも、上記①に該当し、上記③の理由を労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす、として、法定更新であることを明示しております。

従前の判定法理では、上記②の、当該有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に当該契約の更新の申込みをしたか、または当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしており、という要件は明示されていませんでしたが、従前の判例では、労働契約期間の満了時の前後において、労働者が更新を求める一方で、使用者は更新を拒否するという紛争に関するものであったと解されること、法定更新という法律効果の発生を明確ならしめるためには、満了時の前後における労働者の契約更新の求めを要件とすべきと考えられたことなどによって、判例法理の条文化にあたっては、上記②のような要件が規定されました。

労働者の更新の求めは黙示の意思表示でよいのであって、典型的には、使用者の雇止めに遅滞なく異議を述べれば、更新または締結の申込みを黙示にしたこととなります。

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