よくある相続トラブルと解決策
寄与分
父親が死亡し、弟と私が法定相続人となりました。父は遺言を残しておらず、母親は数年前に他界しています。弟は20年前に家を出て遠方に住んでいたのに対し、私は父親と同居し、父親の面倒をみてきました。また、足腰の悪かった父親のために私が100万円程度を支出して家をバリアフリーにしました。このような場合にも私と弟の相続分は同じなのですか。少し不公正な気がします。遺産分割協議で何か私が主張出来ることはありますか。
このような場合、寄与分を主張出来る可能性があります。
寄与分とは、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした相続人に対して、当該寄与分に相当する額を法定相続分に上乗せすることを認めて、共同相続人間の公平を図る制度です。
そしてこの寄与分は、親子関係について通常期待される貢献の程度を超える介護などをしていた場合に初めて認められるものです。
したがって、バリアフリーのために支出した金銭については、財産上の給付による特別の寄与と認められるでしょう。
しかし、お父様の面倒をみていた部分については、単にお父様の面倒をみていたというだけでは特別の寄与とは認められません。
一応の目安ですが、お父様の介護度が「要介護度2」以上の状態であることが必要と言われています。
預金債権の相続
父親が死亡し、相続人は私と姉の二人だけです。父親の遺産は普通預金(300万円程度)のみで遺言は見つかりませんでした。生前、姉は、父親から自宅新築費の援助として400万円程度を受け取っていますが、私は何も受け取っていません。そこで、私は預金については全て受け取りたいと思っていますが、姉が反対していますので、遺産分割調停を申立てたいと考えています。ところが、姉は、預金債権は遺産ではないので家庭裁判所は遺産分割調停を受け付けない、などと言っています。どうすれば良いでしょうか。
預金債権の特殊性と遺産分割調停の申立ての取り扱い
家庭裁判所があなたの遺産分割調停を受け付けないということはありません。
もっとも、預金債権は可分債権であり、相続と同時に法定相続人が法定相続分の割合に応じて当然に取得しますので、遺産分割の対象となる遺産ではありません(この点は難しいのですが、つまり、預金債権は遺産ではなく、お父様の死亡と同時に、あなたとお姉様が150万円ずつ取得することになるのです)。
ですので、遺産分割調停の申立ては認められないようにも思われますが、共同相続人全員が同意をすれば預金債権であっても遺産分割協議の対象とすることが可能です。したがって、家庭裁判所は、本質問のような遺産分割調停を受け付けてくれます。
ただ、お姉様が普通預金を遺産分割協議の対象としないことを家庭裁判所に申出をすると、当該預金債権は遺産分割調停の対象からは除外されてしまい、したがって、調停は不成立となり、また、預金債権を遺産分割審判の対象とすることも出来ませんので、審判は却下されてしまいます。
預金の払戻しと銀行実務
以上のように、共同相続人の一人が反対をすれば、預金債権は遺産分割協議の対象とすることは出来ず、理論的には、各相続人は、その法定相続分に応じて、単独で、預金債権の払戻請求をすることが可能です。
しかし、金融機関の多くは、預金の払戻しの際には、相続人全員の実印を押印した同意書と印鑑証明書の提出を求め、これがないと単独での預金払戻しには応じない対応を採っています。
金融機関が預金の払戻しに応じない場合、弁護士に依頼して金融機関と交渉してもらうか、訴訟を提起することになります。
定額郵便貯金について
本質問と関連するもので重要な場合が、被相続人名義の預金が定額郵便貯金であるケースです。
定額郵便貯金について、判例(最判平22・10・8裁時1517号281頁)は、他の預金債権とは区別して、遺産分割協議の対象となる旨明示しています。
ですので、仮に、本質問においてお父様が定額郵便貯金を有していた場合には、遺産分割調停においてお姉様の意向がどうであれ、当該定額郵便貯金を遺産分割調停及び遺産分割審判の対象とすることが可能です。
現金
母親が死亡し、相続人は私と兄と弟だけです。母親は金庫の中に現金を3000万円程持っていました。その後、兄がこの現金を「遺産管理人」名義で銀行に預金しました。私は、遺産分割前に、この現金のうち法定相続分に従って1000万円を兄に請求することは出来ますか。
残念ながら、出来ません。
預金債権とは異なり、実務上、現金を取得するには遺産分割協議を行う必要があるとされています。
また、お兄様がこの現金を「遺産管理人」名義で銀行に預けたとしても、同様です。
したがって、今回のケースでは遺産分割協議を行う必要があります。
生命保険
父親が亡くなり、相続人は私と姉の2人です。父親は自分を被保険者、兄を受取人として、1000万円の生命保険に加入していました。他の遺産としては高級時計1点(時価合計80万円)のみがあります。この場合、遺産分割はどうすればいいのですか。
この場合、原則として、生命保険の1000万円は遺産分割協議の対象にはならず、お兄様が単独で取得し、残りの遺産(高級時計)を2人で分割することになります。
もっとも、生命保険金が極めて多額であり、他方で、その他の遺産が低額である場合などには、共同相続人間で不公平な結果となることもあります。
このような不公平の程度が著しい場合には、当該生命保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象になるとされています(最決平16・10・29参照)ので、本質問のようなケースでは一度弁護士に相談されるのが良いでしょう。