寄与分と遺留分の優先関係
先月亡くなった父は、農業に従事していました。私は、父と共に農業を営み、ここ10年は老衰した父に代わり私がほとんど一人で農業を営み、父の介護をする等して、父の財産の維持に貢献してきました。父の財産は、農地等総額4000万円で、相続人は、私と妹と姉だけです。私としては、寄与分として7割程度(2800万円)を主張していと思っています。認めてもらえますか。妹等からは、遺留分を侵害するような寄与分の主張は認められないと反論されています。
この問題は、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかという問題です。
まず、今回の遺留分は以下の通りです。
姉 4000万円×2分の1×3分の1=666万円
妹 4000万円×2分の1×3分の1=666万円
他方で、寄与分が7割認められる場合の相続額は以下の通りです。
姉 4000万円−2800万円(=1200万円)×3分の1=400万円
妹 4000万円−2800万円(=1200万円)×3分の1=400万円
そうすると、姉と妹については、遺留分として最低限保障された財産額が666万円以上であるにもかかわらず、長男の寄与分の主張が認められると、わずか400万円しかもらえません。
ですので、姉と妹としては、最低でも666万円は取得出来るはずであるとして、長男の寄与分の主張は認められないと反論しているのです。
このケースでは、寄与分と遺留分どちらを優先するのかという問題が発生しています。
法律上、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかについて、規定がありませんので、寄与分が優先されるとする見解、遺留分が優先される見解の両方があります。
もっとも、民法上寄与分は「・・・相続財産の額その他一切の事情を考慮」(民法904条の2第2項)して定めるものとされていることから、実際の運用上、遺留分を有する他の相続人の利益をこの「一切の事情」として考慮し、遺留分を侵害する寄与分の定めは原則として避けるべき、とする運用説が説得的かと思われます。
裁判例東京高決平3.12.24(判タ794号215頁)も以下のように判示しております。
「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(民法1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(民法904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるに当たっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるに当たって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるに当たっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」
その上で、家業である農業を続け、遺産である農地の維持管理に努め、被相続人の療養看護にあたったというだけでは、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに特別の寄与をした等の「特段の事情」がなければ遺留分を侵害するだけの寄与分は認められないと判示しております。
この裁判例に従うと、父と共に農業を営み、ここ10年は老衰した父に代わり私がほとんど一人で農業を営み、父の介護をするといった事情のみによって、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに当該裁判例の言うところの「特段の事情」がなければ、遺留分を侵害するほどの寄与分は認められません。
たとえば、遺産の不動産の名義がお父さん(被相続人)であるものの、実際は長男が相当程度の出資していたような場合などが考えられます。
長男が、お父さんの為に特別な寄与をしたという事情が他にないのであれば、認められる寄与分は、姉や妹の遺留分を侵害しない限度となる可能性が高いです。