交通死亡事故と逸失利益〜内縁の妻等〜

2014-02-27

相続人でない者と死亡逸失利益について教えて下さい。

Q,

(1)交通事故で死亡した被害者の内縁の妻には、死亡逸失利益は一切支払われないのですか。

(2)離婚した妻に子どもの養育費を送りつつ、親と同居して親の経済上及び生活上の面倒をみていた被害者が交通事故で死亡した場合、は被害者に対して死亡逸失利益を請求できるのでしょうか。

A,

(1)   内縁の妻も一定の範囲で逸失利益の賠償請求をすることができる場合があります。

(2)   相続人である子どもだけでなく同居の親も一定の範囲で逸失利益の賠償請求をすることができる場合があります。

 

内縁の妻の扶養利益喪失による逸失利益一設問

〈最三小判平5・4・6〉

(a)事案

ひき逃げ事件の被害者には18年来の内縁の妻がいましたが、親も妻子もおらず、相続人は妹らのみでした。(ただし、被害者本人は知的障害があり、内縁妻はいんあ者であって、妹らは結婚式にも呼ばれなかったので内縁の事実を知らなかった等、事実認定自体にも相当争いのある事案でした。)本件は、内縁の妻から、政府に対して、自動車損害賠償保障事業に基づく損害のてん補金請求がなされ(ひき逃げの場合には自動車の保有者が明らかではありませんから自賠法3条による損害賠償請求ができないため政府がその損害をてん補する事業を行っており、自賠法71条以下に定めがあります。)政府がこれに対し、支払基準に従い、損害てんぽ金として配偶者の相続分に相当する額を支払ったところ、妹らがその支払いは無効であって自分らに支払われるべきであるとして国を相手に争った事案です。

(b)結論

最判は、①内縁の妻は将来の被扶養利益を喪失したものでありこれを損害としては保有者に対して損害請求できるものであるから、てん舗金の支払も正当であるとしました。その上で、②内縁妻の扶養に要する費用は、死亡被害者の逸失利益から支出されるものであるから、相続人らに相続される死亡逸失利益から控除されるべきであるとして、上告を棄却したのです。

(c)しかし、本判決の②の射程については、本最判はあくまで、政府保障事業によるてん補金支払の場面であることや、相続人たる妹らが被害者に扶養される関係になかったことから、被扶養者の中に相続人と相続人以外が競合しているような場合にまでは射程が及んでいないという考えもあります。また、相続人に死亡逸失利益が全額支払われてしまった後に被扶養者から請求があった場合にどうすべきかといった問題も残されているといわれています。

扶養逸失利益の範囲について(本人の死亡逸失利益との範囲の異同)

〈最一小判平12・9・7〉

(a)事案

交通事故による死亡ではなく殺人による不法行為の事案です。

被害者(31歳)は、前年年収780万円の収入があったが、他方で約48億円の負債を抱えていました。被害者は妻子を扶養していましたが、妻子は負債が大きく相続放棄しました。その上で、実行犯から依頼を受けて偽装工作をした共犯者に対して、扶養利益の喪失等の損害について損害賠償を請求した事案です。

(b)原案は、妻子らの扶養利益喪失損害について、事故年の賃セ男子全年齢平均賃金である金544万1400円を基礎に生活費控除率30%で36年間(67歳まで)認めました。しかし、最判は、扶養利益損失損害は相続により取得すべき死者の逸失利益と当然に同額となるものではないとして、破棄差戻しました。負債が大きかったこと、子らについては20歳で成人し要扶養状態が消滅すること等から、基礎収入の点、喪失期間を36年間としている点等に誤りがあるとしたものです。

本最判は、扶養利益喪失損害の認定について、「…損害額は、個々の事案において、①扶養者の生前の収入、②そのうち被扶養者の生計に充てるべき部分、③被扶養者各人につき扶養利益として認められるべき比率割合、④扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきもの」として、4つの要素を上げました。上記③の要素は、被扶養者が競合しているケースなどにおける解決の指針にもなり得るものといえるでしょう。

いずれにしても、扶養喪失損害分ないしその相互間と稼働逸失利益の相続分とを適正に認定して配分するためには、家族関係・生活実態などを、事案に即して相当きめ細かに具体的に事案認定をした上で配分する必要性があると思われます。

 

下級審判例(大阪地判平19・1・3)一設問

事案は、母(57歳)や兄弟と同居して同居家族の生活費の一部を負担(月5万円)していた被害者(男・31歳)が死亡しましたが、相続人は子(3歳)のみで、子は離婚した妻に養育されており被害者から養育費(月4万円)を受け取っていたというものです。子を原告とする訴訟と、母及び兄弟ら3名を原告とする訴訟とが併合審理されました。

この事案では、被害者は本人の死亡逸失利益が算定された後、母の扶養利益喪失損害が具体的に算定され、残余が相続人子の分とされました(過失相殺前の認定金額で、被害者の稼働逸失利益3684万円余、そのうち、母親の扶養利益喪失分が922万円余、子の相続分が2762万円余と認定されました。被害者の稼働逸失利益(基礎収入は実収入371万円余、生活費控除率40%、67歳まで36年間)、母の扶養利益喪失損害による逸失利益を(月額5万円(年間60万円)で母の余命までの期間(30)年間とし、残余の2762万円を子が相続するとしたものです。)。

母の扶養利益喪失損害の認定に当たっては、月の養育費の方が家計に入れている生活費より少なかったこと、母自身もパート収入があったこと、母が親として被害者の同居の弟妹の扶養義務を負っていたこと、等の様々な事情が総合考慮されています。

被扶養者の中に相続人と相続人でない者がいるケースにおいて、実態に即してかなり具体的に判断したケースです。家族のあり方、ライフスタイルの多様化といった近時の社会情勢の変化を踏まえると、参考になる判断と思われます。

 

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