Archive for the ‘遺言•相続’ Category

 遺留分減殺請求と税務

2014-05-08

遺留分減殺請求と税務について教えて下さい。

1, 申告後に遺留分減殺請求があった場合の税務手続き

遺留分の減殺請求があった場合の税務上の問題は、相続税の申告によって相続税額が確定した後に、他の遺留分権利者から遺留分の減殺請求が行われたときに生じます。

これは、被相続人が遺した適法な遺言に基づいて、相続人や受遺者が相続財産を取得し、相続税の申告を既に行っていますから、この後に、他の遺留分権利者から減殺請求があり、その履行により、相続財産と相続税額に異動が生じれば、既に申告した相続税額に過不足が生じるからです。

この場合のとるべき税務手続は次のとおりです。

(1)遺留分の減殺請求を受けた者

既に確定した相続税額が過大となるため、更正の請求をすることができます(相税32①三)。手続期間は、遺留分の減殺請求に基づき返還又は弁償すべき額が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。

(2)遺留分の減殺請求をしたことで財産を取得し、新たに相続税の申告義務が生じた者

納付すべき税額が生じるため、期限後申告をすることができます。(相税30①)。手続期限の定めはありませんが、申告が無い場合、税務署長による決定が行われます。

(3)既に相続財産を取得していたことで相続税の申告書を提出していた者が、遺留分の減殺請求によりさらに財産を取得した場合

既に確定した相続税額に不足が生じるため、修正申告をすることができます(相税31①)。手続期限の定めはありませんが、申告がない場合、税務署長による更正が行われます。

 

2, 実務上の対応

相続税法上は前記のような手続規定を設けていますが、遺留分の減殺請求があって相続税額に異動が生じても、相続人相互間で合意し、異動した税額分を金銭等で授受すれば、更正の請求と期限後申告・修正申告をする必要はありません。

ただし、遺留分の減殺請求を受けた者が相続税額の納付義務が生じるため、期限後申告又は修正申告をしなければなりません。この申告が無い場合、税務署長による決定又は更正が行われます(相税35③)。

 遺留分の放棄

2014-03-13

遺留分の放棄

質問

(1)   遺留分権利者は、相続開始前に遺留分を放棄することができますか。できるとしたら、その手続きはどうしたらよいですか。

(2)   いったん家庭裁判所に遺留分の放棄の許可審判を受けた後において、事情変更を理由に当該許可審判の取消しを求めることができますか。

(3)   遺留分権利者が相続開始後に遺留分を放棄するには、何か方式がありますか。

 

回答

(1)   相続開始(被相続人の死亡)前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けた場合に限り、有効となります。この場合、家庭裁判所に遺留分放棄の許可申立書を提出することになります。

(2)   この場合でも、その後の事情の変化により、許可審判を維持することが著しく社会的事実情に合致しないと認められるときは,放棄者の申立てにより、家庭裁判所は許可審判を取り消すことができると解されています。

(3)   相続開始後においては、遺留分を有する相続人は、家庭裁判所の許可を得ることなく、自由に遺留分を放棄できます。遺留分の放棄の格別の方式はありません。とはいうものの、遺留分の放棄の有無については、事後的に争いになる可能性が高いので、遺留分の放棄をして貰う場合には、しっかりと書面で明確にしておくべきです。

 遺産分割協議と、高齢者・障害者

2014-03-12

Q  父が亡くなりました。相続人は兄と私と弟の3人です。兄は高齢のため、だいぶ判断力が衰えてきましたが、まったく分からないというわけではありません。弟は交通事故に遭い、脳に重い障害を遺し、兄姉の顔もわかりません。弟は独身なので、事故以来、私がすべて面倒を見ています。父の遺産を分けるには、どうしたらよいでしょうか。

A

(1)お兄さんについては、判断力の衰えの程度により、家庭裁判所の後見(民7条)か保佐(民11条)、又は補助(民12条)開始の審判の申立てをして、成年後見人(民8条)か保佐人(民12条)、又は補助人(民16条)をつけてもらいます。

(2)弟さんについては、あなたを成年後見人候補者として、後見の申立てをして、あなたが成年後見人に選任されるのがよいでしょう。

(3)遺産分割については、あなたと弟さんは、互いに利益が相反すると考えられますので、遺産分割についての弟さんの特別代理人を家庭裁判所に選任してもらうことになります(民860条・826条)。ただし、あなたが後見人に選任されたときに、後見監督人も選任されたとすれば、特別代理人選任の申立てをする必要はありません。(民860条但書)。また、家庭裁判所が遺産分割のための特別代理人だけでは、弟さんの権利を保護するのに不十分だと考えるときは、特別代理人ではなく、後見監督人を選任します。

(4)いずれにしても、お兄さんと弟さんの精神上の障害による判断力の不足を補い支援してくれる人をつけたうえで遺産分割の協議をすることになります。

 遺産分割の前提問題について

2014-03-10

遺産分割の前提問題等に争いがある場合の解決方法について教えて下さい。

 

Q,遺産分割の前提問題として、相続人に該当するか否かについて争いがある場合、相続財産に該当するか否かにつき相続人間で争いがある場合、どのような解決策があるのですか。

A,まずは家事調停があります。この調停が調えば解決は可能です。しかし、実体法上の権利関係については、裁判手続をとらなければなりません。

前提問題の解決方法としては、

1, 家事調停を成立させる方法

2, 家事審判による方法

3, 民事訴訟による方法

などが考えられます。以下に前提問題の類型ごとに解説していきます。

1、 相続人でない者を遺産分割から除く方法

夫が亡くなり、相続手続のために戸籍を取り寄せたました。

そうすると、前妻との間との子が記載されていることがわかりました。

この子は、亡夫が外国に長期出張中に懐胎した子どもであり、亡夫の子ではなく、子どもの出生前に亡夫と前妻は離婚したと聞いています。

戸籍に亡夫の子として記載されている以上、共同相続人になりますので、その記載を訂正する必要があります。

この「子」は、戸籍上は夫婦の嫡出子と記載されていても、実体法上は嫡出推定を受けない嫡出子、すなわち、推定の及ばない子となります。

この場合、妻は利害関係人として「実親子関係の存否の確認の訴え」を提起し、確定判決を得て戸籍を訂正し、この「子」を相続人から排除します(なお、判例実務の運用を前提にしても、今回のケースであれば嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認の訴えを提起出来ます)。

親子関係存否の確定については、調停を申し立てることもできますし、審判をすることもできます。この場合、尋問などの証拠調べが必要になることも多いため、訴訟提起を促されるのが実務の扱いです。

2、 死因贈与の効力を否定する方法

父の遺産分割協議中です。

遺産の不動産登記を見たところ、自宅の土地建物について、妹が死因贈呈を受けたとして、所有権移転登記を得ていました。しかし死因贈与契約を締結した平成●年●月には、父は脳血管障害で何度も入院し認知症の症状もあり、とてもこのような行為ができたとは思えません。家庭裁判所の遺産分割手続で、死因贈与契約の無効を争うことができますか。

家庭裁判所の遺産分割手続内で問題提起をすることは可能です。

兄弟間で話し合いが調えば、調停を成立させることはできます。

ただ、合意に至ることができなければ調停は成立しません。

こうした実体法上の権利関係については、審判には既判力がないため、審判をすることなく裁判手続にゆだねるよう促されるのが実務です。

調停(審判)係属中に、遺産の範囲について争いが生じて訴訟が係属したり、訴訟提起が見込まれる場合には、調停(審判)の取り下げを促され、訴訟の決着がついたときに、改めて遺産分割調停(審判)の申立てをすることになります。

いったん申し立てた調停(審判)を取り下げて、訴訟を提起することは時間も手間も取られることになりますので、どの方法によるのか最初によく考える必要があります。

本問の場合は、死因贈与契約の無効を確認するとともの、父→妹の所有権移転登記抹消登記手続を求める訴訟を提起することになります。

3、 生前の財産領得を争う方法

母の遺産分割協議を行っています。兄から母の預金残高を知らされましたが、生前の母の経済力から考えると、その遺産としてはあまりに少なく、兄がかなりの額を勝手に引き出したものと思われます。家庭裁判所の遺産分割手続では、兄が引き出した預金についても解決することができますか。

2と同じように調停で解決を求めることができます。
合意ができなければ兄に対し民事訴訟を提起します。

兄が引き出して自分の占有に移したとなると、兄に対する請求権は、それぞれの共同相続人に法定相続分ずつ帰属することになります。

具体的には、それぞれの相続人が預金を払い戻した者(兄)に対し、不法行為又は不当利得返還請求を提起することになります。訴訟提起に当たっては、預金通帳の取引履歴を取り寄せる必要があります。通帳を管理している兄から取引履歴の開示を受けられない時には、金融機関に対し開示請求をします。

訴訟の結果、「この金員は兄が母からもらったものである」と棄却された時には、兄の取得分は特別受益とみなされることになります。

上記の裁判に時間がかかりそうな時には、2と同様にいったん調停(審判)を取り下げるか、一部分割として兄が払い戻した額を除いた残余の遺産について調停(審判)手続をすることになります。

 遺産分割方法について

2014-03-09

遺産分割方法について教えて下さい。

 

Q 夫が亡くなりました。遺産として、自宅土地建物、預金があります。私は後妻で、夫には前妻との間に子供が2人います。どのように遺産分割をすれば良いですか。

A まずは、相続人間での話し合い(遺産分割協議)をします。協議が調わなければ、家庭裁判所に遺産分割調停(審判)を申し立てます。

1, 遺産分割をどのように進めるか

遺産分割を進める方法としては、共同相続人の協議による分割、家庭裁判所において調停を成立させたことによる調停分割、家庭裁判所による審判分割があります。

遺産分割の前提問題等の解決のため、訴訟が係属しこれについて和解をする時に、和解調停書内で、遺産分割についても合意することもあります。

2, 遺産分割の基準はどのようなものか

遺産分割は、被相続人が遺言で禁止した場合を除き、いつでも共同相続人の協議で行えます。

協議の中では、法定相続分にとらわれず、自由に取り決めることも可能です。

共同相続人全員が合意すれば、すべてを1人の相続人が相続し、残りの相続人は何も相続しない、という取り決めをすることも可能です。

しかし、共同相続人の協議が調わない時は、家庭裁判所に遺産分割の調停、審判を申し立てることになります。

遺産は、個性のあるものの集まりであり、どの遺産を誰に継がせるべきか、家庭裁判所は調停、審判にあたり、民法906条に掲げられた「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活及び生活の状況その他一切の事情」を考慮して調停を進め、最終的には審判をします。

遺産の一部についてのみ、分割調停や分割審判をすることもできます。

本問でも、妻が自宅を取得することを望むのか否か、子どもたちに取得の希望があるのかなどについて、それぞれの意向、立場を聴き取って、法定相続分による中でも、なるべくお互いの意思を生かすようにするのです。

3, 遺産分割の方法としてどのようなものがあるか

具体的な分割方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4種類があります。どの分野方法を選ぶかについても、民法906条の基準で家庭裁判所が決定することになります。原則は現物分割ですが、これが出来ないとうな時には、代償分割、換価分割、共有分割の順で検討されます。

4, 本問題への回答

本問では、分割協議が調わない時には、家庭裁判所に調停、若しくは審判の申立てをし申立人と相手方のそれぞれから、どのような遺産分割を望むのかを聴き取り、話し合いでの解決を試みます。

申立人は、自分たち以外の共同相続人すべてを相手方としなければなりませんが、相手方全員が分割について合意しているとは限りません。その場合は、相手方もグループ分けをして、個別に意思を聴き取ることになります。

調停では、全員の合意が第一ですから、法定相続分にとらわれず、分割内容、方法について協議をします。

本問題では、妻が自宅土地建物を取得し、預金を子どもに2人で分ける(現物分割)という内容で調停を成立させることもできます。

子どもが「預金だけでは、自分たちの法定相続分に及ばないので、配慮してほしい。」となれば、妻が自分の財産からいくらかの代償金を拠出し子どもに渡す(代償分割)方法によることも現実的な解決案です。

全員が自宅土地建物の取得にこだわらず現金が欲しい、ということで合意した場合には、自宅土地建物を売却して売却代金と預金を合わせて分割する(換価分割)という方法がとることもできます。

いずれの方法でも合意に至ることができなければ家庭裁判所の審判によることになりますが、その時は前述のことが考慮されることになります。審判の内容が上記事情を考慮していないとして不服であれば、民法906条違反ということで、即時抗告することができます。

 遺産調査〜遺産分割調停・遺留分減殺請求〜

2014-03-05

遺産分割調停で相手が財産を開示していないと思います。どうすれば良いですか。

まずは、相続税申告書を調べます。

相続税申告は相続開始後10ヶ月以内に行う必要がありますので、被相続人が亡くなられてから10ヶ月を経過すれば、その段階で申告書が手に入るとは思います。

この相続税申告書には不動産や預貯金などの遺産(無価値な動産や形見程度のものは除きますが)は基本的に全て記載されているはずです。

そのため、遺産内容を把握する方法として相続税申告書が一つの有効な手段です。

もっとも、相続税申告書は申告者が作成するものであり、記載すべき遺産を申告書に記載していない場合もあります。

そのような場合には、独自で遺産を調査する必要が生じます。

ここで、最も隠匿され易いのが預金です。

預金については、数年前まで、多くの金融機関が、被相続人(死亡した人)の預金口座の動きを知りたければ、相続人全員の印鑑をもらってこいという姿勢でした。

しかし、近時、最高裁判所が、相続人からの請求があれば、全員の同意がなくても、被相続人の預金の取引内容を知らせなければならないとの裁判をしたことから、現在は、ほぼほとんどの金融機関がこれに従っています。

その場合、以下の資料等が必要です。

まず、あなたが、被相続人の相続人であたることを明らかにする資料が必要です。被相続人とあなたのお父さんの除籍謄本、あなた自身の戸籍謄本の取り寄せが必要です。なお、あなたが戸籍に記載された相続人であることについては、運転免許証で証明可能です。

次に、取引履歴の開示は各金融機関の支店毎に請求する必要があります。

したがって、被相続人が、たとえば三井住友銀行と取引していたというだけでは足りず、同銀行のどこの支店と取引していたかを確認する必要があります。

なお、被相続人が死亡した時点の遺産残高の確認だけでは不十分です。

被相続人が死亡する前に、多額の金銭が引き出されている場合が多いので、死亡前の少なくとも数年前からの取引状況の開示が必要です。

金融機関から情報を入手した後で、その取引におかしい点があるかどうかを確認する必要があります。

備考欄から、被相続人が取引していた他の取引銀行や証券会社が判明した場合には、その金融機関に対しても取引履歴の調査をする必要があります。

 遺産分割協議と遺留分

2014-02-28

遺留分があることを知らずに不利な内容で遺産分割協議をしてしまいました。何とかなりませんか。

遺留分は相続人に最低限保障された相続分です。

しかし、遺留分が問題になるのは、遺贈や生前贈与がなされた場合です。

したがって、遺言や生前贈与がない場合には遺留分が問題となる余地はありません。

遺産分割協議書に任意で署名した場合には、遺留分を知らなかったとしても、その遺産分割協議が覆ることはありません。

 遺留分と価格賠償

2014-02-16

先日、夫が亡くなりましたが、公正証書遺言があり、その遺言では、「全ての遺産を妻(私)に相続させる」となっていました。ですので、私が全部の遺産を取得しました。ところが、先日、長男(夫と前妻との間の子)が私に対し遺留分を請求する旨内容証明郵便を送ってきました。遺産は、自宅(土地、建物)、現金(1200万円)があります。自宅の評価は、夫死亡時点で約1億円、現在は1億2千万円くらいです。法定相続人は、私(妻)、長男(前妻との間の子)、次男(私との間の子)、長女(私との間の子)です。私は、不動産は手元に残し、金銭を渡したいと考えています。どのような対処したらよいでしょうか。

 

遺留分減殺請求 をすると、対象不動産は、その割合で相続した人と遺留分権利者との間で共有関係になります。

金銭については、遺留分権利者は相続した人に対して遺留分割合の支払請求ができます。

なお、この場合の遺留分は、以下のとおりです。

長男 2分の1×3分の1×2分の1=12分の1

したがって、不動産は、あなたが 11/12、長男が 1/12 の持分を持ちます。

また、同時に、あなたに対して100万円の金銭支払い請求ができます。

しかし、あなたは、不動産の価額を弁償すれば、不動産を取得出来ます(民法1041条)。

あなたは、裁判において「裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による価額の弁償をなす」旨の意思表示をすればよいのです。

民法1041条の規定による価額とは、夫死亡時の価額ではなく、裁判の口頭弁論が終結した時点で計算します。

あなたとしては、1億2000万円×12分の1=1000万円を支払うことで不動産を取得することが出来ます。

判決

最高裁判所平成9年2月25日判決(判例時報1597号66頁)

減殺請求をした遺留分権利者が遺贈の目的である不動産の持分移転登記手続を求める訴訟において、受遺者が、事実審口頭弁論終結前に、裁判所が定めた価額により民法1041条の規定による価額の弁償をする旨の意思表示をした場合には裁判所は、右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上、受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として遺留分権利者の請求を認容するべきである。

 

 持戻免除の意思表示

2014-02-15

 持戻免除の意思表示って何ですか。

持戻免除(もちもどしめんじょ)の意思表示とは、特別受益(特別受益についてはこちら)において被相続人が遺贈又は贈与した額を持ち戻さなくてもよいとする意思表示のことをいいます。

つまり、被相続人からの贈与が特別受益に該当するとしても、持戻し計算をしない取り扱いを被相続人が表示したときは、この被相続人の意思を尊重するというものです。

従って、この持戻免除の意思表示を認めると贈与や遺贈を受けた相続人はその分だけ被相続人の財産を多く取得することになりますので、相続人間の実質的衡平の見地からは、それだけ多く利益を取得するだけの合理的理由が要請されるものと考えられます。

なお、持戻免除の意思表示は、特別の方式は必要ではありません。

また、その意思表示は、明示のものでも、黙示の意思表示でもよいとされています。

なお、遺留分の規定に違反した持戻免除の意思表示については、当然無効ではなく、あくまでも遺留分減殺請求権の対象となるものにすぎないとの説が有力です。

 寄与分と遺留分の優先関係

2014-02-14

先月亡くなった父は、農業に従事していました。私は、父と共に農業を営み、ここ10年は老衰した父に代わり私がほとんど一人で農業を営み、父の介護をする等して、父の財産の維持に貢献してきました。父の財産は、農地等総額4000万円で、相続人は、私と妹と姉だけです。私としては、寄与分として7割程度(2800万円)を主張していと思っています。認めてもらえますか。妹等からは、遺留分を侵害するような寄与分の主張は認められないと反論されています。

この問題は、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかという問題です。

まず、今回の遺留分は以下の通りです。

姉 4000万円×2分の1×3分の1=666万円

妹  4000万円×2分の1×3分の1=666万円

他方で、寄与分が7割認められる場合の相続額は以下の通りです。

姉 4000万円−2800万円(=1200万円)×3分の1=400万円

妹 4000万円−2800万円(=1200万円)×3分の1=400万円

そうすると、姉と妹については、遺留分として最低限保障された財産額が666万円以上であるにもかかわらず、長男の寄与分の主張が認められると、わずか400万円しかもらえません。

ですので、姉と妹としては、最低でも666万円は取得出来るはずであるとして、長男の寄与分の主張は認められないと反論しているのです。

このケースでは、寄与分と遺留分どちらを優先するのかという問題が発生しています。

法律上、寄与分と遺留分のどちらが優先されるかについて、規定がありませんので、寄与分が優先されるとする見解、遺留分が優先される見解の両方があります。

もっとも、民法上寄与分は「・・・相続財産の額その他一切の事情を考慮」(民法904条の2第2項)して定めるものとされていることから、実際の運用上、遺留分を有する他の相続人の利益をこの「一切の事情」として考慮し、遺留分を侵害する寄与分の定めは原則として避けるべき、とする運用説が説得的かと思われます。

裁判例東京高決平3.12.24(判タ794号215頁)も以下のように判示しております。

「寄与分の制度は、相続人間の衡平を図るために設けられた制度であるから、遺留分によって当然に制限されるものではない。しかし、民法が、兄弟姉妹以外の相続人について遺留分の制度を設け、これを侵害する遺贈及び生前贈与については遺留分権利者及びその承継人に減殺請求権を認めている(民法1031条)一方、寄与分について、家庭裁判所は寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定める旨規定していること(民法904条の2第2項)を併せ考慮すれば、裁判所が寄与分を定めるに当たっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべきは当然である。確かに、寄与分については法文の上で上限の定めがないが、だからといって、これを定めるに当たって他の相続人の遺留分を考慮しなくてよいということにはならない。むしろ、先に述べたような理由から、寄与分を定めるに当たっては、これが他の相続人の遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないというべきである。」

その上で、家業である農業を続け、遺産である農地の維持管理に努め、被相続人の療養看護にあたったというだけでは、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに特別の寄与をした等の「特段の事情」がなければ遺留分を侵害するだけの寄与分は認められないと判示しております。

この裁判例に従うと、父と共に農業を営み、ここ10年は老衰した父に代わり私がほとんど一人で農業を営み、父の介護をするといった事情のみによって、寄与分を大きく評価するのは相当ではなく、さらに当該裁判例の言うところの「特段の事情」がなければ、遺留分を侵害するほどの寄与分は認められません。

たとえば、遺産の不動産の名義がお父さん(被相続人)であるものの、実際は長男が相当程度の出資していたような場合などが考えられます。

長男が、お父さんの為に特別な寄与をしたという事情が他にないのであれば、認められる寄与分は、姉や妹の遺留分を侵害しない限度となる可能性が高いです。

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